みんなに聞いて欲しいことがあるのー!
今日ね、今日ね、会社でね、私他の部署に用事があったの。急いでたから電話で済まそうと思って、電話したのね。
そしたら話中だったの。だからね、だからね、もう一つ電話番号があるからそっちにも電話したのね。そしたらね、そしたらね、いくらコールを待ってても誰も出ないの。
しょがないから、しょうがないから、もうひとつ、もうひとつ電話番号があるからそっちにも電話したのね。三つ目の電話番号。そしたらね、そしたらね、なんと、またまた誰も電話に出ないの。
そのとき私は気づいたんだ。これが所謂、いわゆる、
「でんわに誰もでんわ。」
こんばんはー!
私だよー!私なのー!私が来日したのー!
どう?どう?
上々の滑り出しだろう?悪かぁねぇだろう?
今日~だって~あな~た~を~想いな~がら~歌~うたぁ~いは歌~うよ~♪
私今日も歌ってるのー!
「粉ぁ~~~~~~~~ゆきぃ~~」
のりのりなのー!
でんわにだれもでんわ。でんわにだれもでんわ。でんわにだれもでんわ。
傑作なのー!最高なのー!
だってさー?聞いてよ?ねぇ?
「でんわにだれもでんわ。」
わかる?でんわに誰もでないんだよ?
笑いが止まらないのー!
想像してみるんだよ。
電話に誰もでないの。私が汗だくだくで、超特急の用事があるなか、電話をかけるの。そしたらね、
「でんわにだれもでんわ。」
ぐふふふ。思い出すだけで、もう、ぐふふふ。
いいみんな一回冷静になって。頭を冷やして聞いて欲しいの。ね?整理しよう。
「でんわにだれもでんわ。」
きゃーおもしろいのー!
おもしろくなってきたろう?なあ?だんだんきてるだろう?
笑いのビックウェーブが!
わかってきたろう?わかってきたろう?じわじわきてんだろう?
今日ね、会社でね、私ね、電話をね、そしたらね、でんわにね、
おばあちゃんの家にね、黒い電話があったんだ。「黒電話」ってやつ。わかる?
おばあちゃんの家はもう取り壊されちゃって跡形もない。でも今でもその黒電話は印象に残ってるんだ。
おばあちゃんの家の居間にその黒電話があって、その近くには煙突式?ストーブみたいなのがあってさ、よくそばにいたんだ。
「あんまりストーブに近づくとセーターが焦げちゃうよ。」
よく言われてたなあ。今でも覚えてる。あの少し焦げたようなにおい。そのストーブの近くで、黒光りする電話。
なかなかの存在感だよ。結構な威圧感があってさ、
「ジリジリジリーーー。」っていう独特の音がしてさ、子供心に少しばかり恐れを抱いてたよ。お姉ちゃんも少しその黒電話が怖かったんじゃないかな?
でさぁーうちのおばあちゃん少し耳が遠くてさ、台所で洗い物をしてると電話の音に気がつかないわけ。私もお姉ちゃんもその黒電話が怖かったからね、3人も居るのにね、だれも電話に出ないの。そう、だれも電話にでないの。
ねえ、みんな、わかってるよね?
「でんわにだれもだんわ。」
やっぱり最高なのー!傑作なのー!みんな大爆笑なのー!ぜんぜん、ぜんぜんスベッテないのー!
私おばあちゃん大好きだったよ。おばあちゃんはいつだって私の味方だった。無条件で可愛がってくれた。孫の中で一番可愛がってもらった。ありがとう。理屈じゃないね、私にとっては私を可愛がってくれたおばあちゃんだ。それだけだ。ありがとう。
おばあちゃん、最後には電話という物すら理解することができなくなったんだよな。電話で話すということができなくなってしまった。典型的な認知症だった。
「居なくなってからじゃ遅い。」
よく言われることだけど、本当にそう。失ってから気づくんだ。居るときじゃわからない。居るときには気づけなかった。私はおばあちゃんの気持ち全然わかっていなかった。
ちがう、わかろうとしていなかった。想像力と思いやり、理解しようという気持ちがなかったんだ。
足りなかった。私に欠けていた。
私いま気づいた。
私、鼻毛出てた。
ショックなのー!
大ショックなのー!
今日は一日会社でそつなく仕事をこなし、来客との対応もスムーズにこなし、まさにまさに「THE できる男!」を演じてたつもりだったのにー!
あの時も鼻毛、あの場所でも鼻毛、あの瞬間も鼻毛、
鼻毛 鼻毛 鼻毛 鼻毛 鼻毛 鼻毛
「はなげー。」
さっ、さっ、さっ、最悪なのー!「本気」って書いて「まじ」で最悪なのー!
来週は鼻毛注意報で行くのー!